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福岡高等裁判所 昭和24年(う)917号 判決 1949年11月14日

被告人

大崎正次

主文

本件控訴を棄却する。

理由

檢事の控訴趣意並びに弁護人の答弁趣意は、それぞれ末尾添付の書面記載のとおりである。

右に対する判断。

使用者が労働基準法第二四條の規定により、労働者に対し、毎月一回以上、一定の期日を定めて賃金を支拂うべきであるのに、同條の規定に違反してその賃金の支拂を怠り、同賃金不拂の所爲につき、同法第一二〇條第一号所定の罪に問われる場合の罪は支拂期日に賃金の支拂を受くべき労働者の数に應じ、各労働者毎に独立して箇別的に成立するものと解するを相当とし、從つて各労働者の数だけの併合罪として処断すべきこと、檢事所論のとおりである。

そして原判決は、適法な証拠によつて、

「被告人は、大分縣直人郡柏原村所在の製材業を営む大崎興産株式会社の取締役であつて、羽田野田男外二十六名の労働者を使用しているものであるが、法定の除外事由なく使用者として右労働者に対し支拂うべき賃金のうち、

第一、昭和二十四年三月分羽田野田男外二十一名に九万四千二百二円四十四銭

第二、同年四月分羽田野田男外二十名に八万一千五百五十二円

第三、同年五月分羽田野田男外十八名に九万一千九百六十三円

を各賃金支拂期日である右各月の翌月十日までに支拂わなかつたものである。」

という事実を認定し、右に対し、労働基準法第二四條第二項第一二〇條第一号刑法第四五條刑法第四八條第二項を適用し、被告人を罰金一万五千円に処している。

檢事の論旨は、原判決は右併合罪の箇数を判示第一、第二、第三、の三箇として処断したものであつて、判示第一を二十二、判示第二を二十一、判示第三を十九、都合六十二箇の罪数として処断したものではない、ということを前提としているようであるが、原判決の法令の適用は前述のとおりであつて、必ずしも三箇の併合罪として処断したものであるとは、論断し難く、六十二箇の併合罪として処断したものであると解されないことはない。併合罪の関係にある犯罪事実を判示するに当り、各犯罪別に、各項目を掲げて表示することは、通常慣例とされているところではあるが、それは法律上必須の要件ではなく、その犯罪の箇数が判然と判別し得られる程度に表示してありさえすれば、必ずしも各犯罪別に、各項目を掲げて表示するの必要はなく、便宜概括的に表示しても差支えはない。原判決は、右便宜の方法に從い、六十二箇の罪数の併合罪を、三項目に分けて判示したものと解し得られるので、判示の方法としても間然するところはないというべきである。

原判決には、法令の適用を誤まつた違法があるということができないこと、右説明のとおりであつて、原判決に法令適用の誤りがあるとするのは、原判決の判文を誤まつて解釈する誤まつた見解にもとずくものというべく、この点に関する論旨は採用の限りでない。

記録にあらわれた諸般の情状に徴するに、被告人を罰金一万五千円に処したのは相当であつて、記録を精査するも、原判決の刑の量定を不当とすべき事情は、これを発見することができないので、この点に関する論旨にも賛同し難い。

なお本件起訴状に、犯罪年次の記載が洩れていることは、弁護人指摘のとおりであるが、本件においては、そのことのために犯罪の同一性を判断する上に支障ありと認めらるべき事情は全く存せず、昭和二十四年七月二十八日の原審第一回公判期日の冐頭において、本件犯罪が昭和二十四年三月分以降の賃金不拂にかかるものであることが明らかにされているのに対し、訴訟関係人において何らの異議なくして審理が進められ、事実上本件犯罪が昭和二十四年三月分以降の賃金不拂にかかるものであること、本件記録によつて明らかであるので、本件起訴状に前記の瑕疵があるからといつて、本件起訴の効力が全くないと論断するのは相当でない。

その他原判決を破棄すべき事由がないので、刑訴第三九六條により本件控訴を棄却すべきものとする。

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